この物語は、ビジネスにおいて悩みを持った人のもとに、不思議な男が現れて様々なアドバイスをしていくというサクセスストーリーです。※登場する一切はフィクションです。小説家ではありませんので、どうぞ温かい目でご覧ください。
人生のゴールはプロセスだ
プロローグ
「行けないってどういう事!?約束したじゃない!!」
ある朝のこと。2人暮らしの夫婦の家で朝から声を荒げているのは、この家の妻のゆきえだ。
「しょうがないだろう。仕事なんだから。俺がいま頑張っているのは、お前のためでもあるんだぞ!」
ネクタイを結びながらそう言って反論しているのは、旦那のまさし。2人は結婚して2年目の、まだ新婚と言っていい夫婦だ。
「最近ずっと仕事だから、今度の休みは私のために空けてくれるって言ってたのに!なのにまた仕事だなんて!あなたっていつも仕事ばっかり!たまには私との時間もとってよ!」
「好きで入れたわけじゃないさ!俺だって楽しみにしていたけど、いまは大事な時期なんだ!分かってくれよ。」
まさしは1年前に、ウェブ制作会社を立ち上げたばかり。いまは会社を大きくしようと毎日必死に働いている。
「とにかく、いまは仕事に全力で取り掛からなければいけないんだ。そのためには、少しくらい我慢してくれよ。じゃあ、行ってくる。」
そう言ってまさしはジャケットとカバンを持ち、家を出た。
人生のゴール
「全く…いま俺が頑張っているのはあいつのためでもあるのに、なんでわかってくれないんだ。」
その日の昼過ぎ。まさしは外回りの最中で、スケジュール確認のために公園のベンチに座っていた。
「いま頑張れば5年後、10年後にはみんなが笑顔でいられるはずなんだ。そのためには、いまは何よりも仕事が大事なんだよ。」
自販機で買った缶コーヒーを飲みながら、まさしは朝の出来事を思い出していた。それがぼそっと声に出ていたようだ。
「このままだと、あなたは不幸になりますよ。」
突然の声にまさしは驚き慌てて横を見た。声をかけられるまで気づかなかったが、いつの間にか隣に怪しい男が座っていた。
「誰だあんた!」
男は夏だというのにトレンチコートを羽織り、顔は帽子を目深にかぶっていた為よく見えなかった。座っていても体が大きいのが分かる。身長は180cm程だろうか。
「私が誰かはどうでもいい事です。それよりも、先ほどから少しあなたの独り言が聞こえてましてね。盗み聞くつもりはなかったのですが、いまのあなたの考えていることは大体わかりました。
それを踏まえてもう一度言いますが、あなたはこのままだと不幸になります。」
まさしはこんな怪しい男の言うことなんて無視しようと思ったが、このまま知らない奴に一方的に言われたままなのはシャクなので言い返した。
「あんたにはわからないだろうがな、俺は会社を経営しているんだ。いまはまだちっぽけかもしれないけど、5年後10年後には知らない奴はいないくらいのでかい会社にしてやる。これが不幸なわけあるかよ。」
それを聞くと男はさもおかしそうにクックックと笑った。「なるほど、でかい会社ね。それは確かに成功した人生と言えるでしょう。仕事の上ではね。では一つお聞きします。あなたの人生のゴールはなんですか?」
人生において大事なもの
「俺の人生のゴール?決まってるだろ!会社をもっとでかくして、上場して、日本中にその存在を広げることさ!」
「その時、周りには誰がいますか?」まさしの答えに対して、男はこう言った。
「誰がいるって、俺の家族と社員がいるに決まっているだろう。」
「あなたがいまのままの生活を続けていて、果たして数年後も同じ様なことになっているでしょうか?」
「なんだと…」男の言葉に、まさしは言い返すより先に今朝の久美とのやりとりを思い出した。
『「あなたっていつも仕事ばっかり!たまには私との時間もとってよ!」』
「今のままの生活を続けて、もしかしたらあなたの会社は成功するかもしれない。しかし、あなたの人生はどうなっているでしょう。特に人間関係は、友人や家族は残っているでしょうか?あなたがゴールに行って見たかった景色は、いま思い浮かべた人と一緒に見たかった景色ではないのですか?いまのま魔の生活を続けていれば、離れていく人の方が多いのではないでしょうか?」
「あんたには関係ないことだろ!」
見ず知らずの男にここまで言われ、まさしはカッとなった。
男は動じず、続けてこう言った。「私はね、人生のゴールはプロセスだと思うんですよ。」
最優先すべきもの
「プロセスがゴール?何言ってんだ。プロセスはゴールに行くまでの途中のことでしかないだろ。」
昼下がりの公園。2人の男がベンチに座って話していた。缶コーヒーを持ったスーツの男性は立って、座ってトレンチコートを羽織っている男を睨んでいるようだった。
「大半の人がそう考えるかもしれません。頑張っている人ほどその様に考えるかもしれませんね。」
ベンチに座っている男が話す。
「しかし、自分の生きたい人生を生きられているか。そこが大事なのです。もちろん日々の出来事に全力で取り組む姿勢は素晴らしいです。ただ、自分のゴールのためにやりたい事をやって、日々努力をして叶えても、周りに人がいなければ夢を叶えても意味がありますか?
自分のゴールにたどり着いてお金や名誉、地位を手に入れた時、あなたが本当に欲しかったものはなにか、人は知るでしょう。プロセスというのは、自分の生きたい人生を生きていられるか。大切にしたいものを大切にできているか、が大事なんですよ。これはあくまでも主観ですが、多くの人は大切にしたいものは何かと聞かれると、人間関係を挙げます。自分の生きたい人生を生きると言うことは、人間関係を大事にして生きることなのではないでしょうか?」
まさしは反論しなかった。人間関係が人生において一番大事だと男は言うが、それは人によっては違うだろうと反論することもできた。しかし、まさしの頭からは今朝のゆきえとのやりとりが離れず、何も言えなかった。
「もちろん、あなたの考えが一方的に悪いと言っているわけでもありません。大事な人たちのためにいまを頑張る。素晴らしい志だと思いますよ。でもね、いまを頑張ると言うのは他を疎かにしていいとイコールではないのですよ。大事なのは、何を最優先に時間を割くかなのです。」
「何を最優先にするか…」
「そうです。あなたが夢を叶えたときに、どういう状況でいたいのか。そのためにいま大事にしなければいけないことは何か。例えば、夢を叶えた時のために周りには家族や仕事の仲間にいて欲しいと思うのであれば、忙しくても、面倒だと思っても、週に1回はその人と過ごすようにしたり、相談事などは最優先にしたりする。その間は仕事から離れてみる。もしかしたら、その休んでいる間に、仕事もいい具合に情報が整理されるかもしれませんよ。
だから人は、日々のプロセスを大事に生きなければいけないのです。それが、人生のゴールはプロセスだ、と言った理由。このままだとあなたは不幸になると言った理由ですよ。」
エピローグ
まさしは持っていた缶コーヒーをじっと見つめながら考えていた。
そしてふと気がつくと、隣に座っていたはずの男がいつの間にか消えていた。
「あれ…?一体どこに…」
まさしは周りを見渡すが、見当たらなかった。
「人生のゴールはプロセス、か。」
そう口に出して行ったまさしは、ポケットから携帯を取り出し電話をかけた。相手は今朝喧嘩別れしてきた人だ。
「もしもし?俺だけど。今朝はごめん。あのさ、今度の土曜日、2人で出かけないか?」
完
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