【未来予測】年金問題・人材不足・AIの発展~これから来る時代に対応するためには~

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この物語は、ビジネスにおいて悩みを持った人のもとに、不思議な男が現れて様々なアドバイスをしていくという問題解決ストーリーです。※登場する一切はフィクションです。小説家ではありませんので、どうぞ温かい目でご覧ください。

人生100年時代~チャレンジするとき~

プロローグ

「かんぱ~い!!!!」

金曜の夜。いわゆる華金に、仲原 誠は同期3人と居酒屋に来ていた。

「いや〜、それにしても俺たちって本当に勝ち組だよな!」ビールが入った大ジョッキをあっという間に空にして、同僚の武田が大きな声で話す。

「まあな。なんたってあのTAYATO商事に勤めてるんだからな。」もう一人の鈴川が返す。

「このまま定年まで働き続ければ一生安泰ってわけさ。」もう一人の眼鏡をかけた少しキザに見える冴島もそう答えた。

その話を聞いていて仲原も、大人しい性格なので口には出さなかったが(確かにいま勤めているところは日本でもトップクラスの大企業だし、このまま働き続けられるように頑張ろう。)と思っていた。

そのまま彼らはしばらく飲み続けた。酒もたくさん入り、彼らの席の話し声がだんだん大きくなって来た。周りの視線を意識し出した仲原は、そろそろ店を出ようかと提案しようとしたそのとき。

「楽しんでいるところ失礼しますよ。」

一人の背の高い男性が、4人のテーブルに近づいてきた。店員ではなさそうなので、お客があまりのうるささに直接抗議にきたのかと思った。

「あ、騒いでいてすいません。もう出ますので…」と仲原が対応したが、

「いえ、そのことを言いにきたのではありません。先ほどからあなたたちの楽しそうなお話が筒抜けだったのですが、話を聞くとずいぶんいい企業にお勤めのようだ。」

男は店内なのにトレンチコートを着たままで、昔の映画に出てくるような帽子をかぶっていた(ソフトハットというのだと後で知った)。

「あ、なんだよオッサン。俺たちに何か売りつけようってのか?」武田が返事するが、酔いが大分回っているようだ。いつにも増して口が悪い。

「いえいえ、そんなことでもありませんよ。一つあなた方にご忠告しておこうと思いましてね。このままでは、あなたたちの人生は暗い方向に向かって進みますよ。

その男性が言った言葉に、4人のテーブルは一瞬静まり返った。そしてすぐに

「はっはははは!!!」仲原以外の3人が大声で笑った。

「おいおい、いきなり何言い出すんだよ。俺たちの話を聞いてたなら分かるだろ?俺たちは日本でもトップクラスの会社で働いているんだ!その時点で勝ち組なのさ。後はこのまま働いていれば、おっさんとは違った何不自由ない老後が送れるってわけさ。」

「その通り!」飯田が援護射撃する。

「ふふふ、なるほど。大企業に勤めているから、ね。まぁどのような人生に進むのかはあなたたち次第。自分の間違っていないと思う道に進むのが一番です。どうぞ、私の言ったことは忘れてください。では、これで失礼。」

そういって男は店の入り口のレジに向かって行った。

「なんだあいつ。」

「ほっとけ。どうせ俺たちの話が聞こえて妬んでるだけさ。」

「へへへへ。そうだな!よーし、店変えて飲みなおそうぜ!」

そう言って4人も店を出た。

仲原だけはその場で別れて(「なんだよ仲原!もう一軒行こうぜ!」「ごめん、家が遠いからまた明日。」)一人駅までの道を歩いていた。

歩きながら仲原は、先ほどの不思議な男のことを思い出していた。『このままでは、あなたたちの人生は暗い方向に向かって進みますよ。』

(いきなりそんなこと言って、変な人だったけど…一体どういう意味なのか、もう一度会ってみたい気もするな…。)

そんなことを考えていると、いま頭の中に浮かんでいた男が自分より少し先を歩いているのが見えた。あのトレンチコートは間違いない。

思わず仲原は、走り出していた。「あっ、あの!….すいません!」お酒を飲んだ後に、急に走り出したので上手く走れない。思ったより飲んでいたようだ。

それでも声が聞こえたのだろう。トレンチコートの男が後ろを振り返った。立ち止まってくれているので、仲原はフラフラな足取りながら追いつくことができた。

「おや、あなたは先ほどのお店にいた…」「…はいっ、仲原と…言います…。あの、少しお話ししても…」仲原は少し吐き気を我慢しながら喋っていたが、言わんとしていることは通じた。

「まあ、まずは落ち着いて。それからゆっくり歩きながら話しましょう。」

老後3,000万問題

「仲原さんは、老後に必要な貯金はいくらくらいだと思いますか?」男は仲原にこう聞いた。

居酒屋から駅まで向かう道を、二人は歩いていた。仲原が「先ほどお店で言ったことは、どういう意味ですか?」と尋ねたところだった。

いきなりの質問に戸惑いつつも、仲原は答えた。「老後に必要なお金ですか?人によっても違うと思いますが…まあ結婚したりしていたら、最低で二人分、2,000万〜3,000万円くらいかな。」

「ほう、なかなか鋭いですね。」男はニヤリとしながらそう言った。「おっしゃる通り。政府の試算では、夫婦で3,000万が必要と言われています。」

「そうですよね。でも、いま頑張って働いて貯金して、年金ももらえればなんとかなりそうだと思っています。」仲原のその言葉に、男はまたニヤリとした。

「仮に夫婦共働きであなたたちのいうところの大企業に勤めて、定年まで働き、年金が充分にもらえればそれも可能だったかもしれません。しかしこれからの時代、世の中そう甘くは行かないのですよ。国が二つの年齢を上げたことによってね。」

「二つの年齢?」

「ええ。定年と年金の受給年齢です。これまでは、定年を65歳まで上げて希望者全員が働ける制度になっていました。しかし今度は、定年が70歳に上がります。これが何を意味するのか、分かりますか?」

「え?いえ…働きたい人が引き続き働けるようになって、良くなったと思います。」

「ではなぜ、働きたい人がいるのでしょうか?」男は質問を深堀していく。

「そりゃあ、仕事が好きだって人もいますから。生きがいになっているんじゃないですか?」

「そうですね。そうともいえるでしょう。ですが、それだけではないと私は考えています。人が働き続ける理由。それは、お金のためですよ。」

「お金のためって、まぁそりゃそうかもしれませんが…」

「これにはちゃんとした理由があります。もう一つの年金の受給年齢が上がったのは、あなたもご存知でしょう?」

「え?あぁっ。ニュースでやっていましたね。確かいままで60歳でもらえていたのが…」

「段階的に、65歳まで引き上げられることになりました。これが意味すること。それは、国には国民を養う力がないからだと私は考えています。力がないから働ける世代を増やして人材不足を補おうとしている。しかし一方で、企業にとっては給与が高い年齢層の人たちを雇い続ける余裕はなくなってきている。大企業安定論は、もう崩壊しているのですよ。いまや、国にも企業にも頼り続けるのは危険な考えなのです。」

企業安定論の崩壊

「崩壊しているって、それはちょっと大げさじゃないですか?」

「本当にそう思いますか?最近のニュースでも、ほづみ銀行の大量解雇のニュースがあったのをご存知ないですか?」

もちろん仲原もサラリーマンとして新聞やテレビで情報を得ているから知ってる。数ヶ月前、ほづみ銀行他いくつかのフィナンシャルグループから、数千人規模の人員削減が発表されたのだ。

「あれは確かに話題になりましたけど、うちはそんなことにはなりませんよ。…多分。」
男の言葉に、仲原はだんだんと酔いがさめていくのが分かった。

「よろしい。では、あなたの会社は少なくともあなたが働いているうちは大丈夫だとしましょう。しかし、定年の65歳、70歳、いやもしかしたらあなたが定年になるときはもっと上かもしれない。そんな年齢になってまで、20代や30代の人と本当に楽しく、一緒に仕事をする気になりますか?」

そう言われて仲原は想像してみた。白髪が生え、体力も昔に比べて衰えた身体。周りはエネルギッシュに外回りに出たり、仕事の話で熱くなる若者たち。その中にポツンといる自分を想像して、仲原はブルブルっと頭を振った。

人材不足

駅までの帰り道。二人は横並びで、赤になっている信号の前に立っていた。

「さらに、日本は圧倒的な人材不足の状態にあります。」

「人材不足?」

「そうです。先ほど年金の話をしましたが、50年前は大体9人で1人のお年寄りを支える『胴上げ型』と呼ばれていた形態でした。しかし高齢化が進み、10年前は2〜3人で1人を支える『騎馬戦型』に、そしていまから30年後には、1人が1人を支えなければいけない『肩車型』になっていくと言われています。これが何を意味するかお分かりですか?」

「働く世代1人の負担が増えて、大変なことは分かりますが…」

「そうです。先ほど老後の貯金に夫婦で3,000万円必要だと話しましたが、それに加えこの状況は、分かりやすく言えば『給与の半分を高齢者の方にあげてください。でもあなたたちの老後資金のために、3,000万円貯金してください。』と言っているようなものなのですよ。」

「えぇっ!給与の半分で生活しながら3,000万円貯めろってことですか!?無理でしょうそんなの!」

信号が青に変わり、二人はまた歩き始めた。

「そう、このままでは無理でしょうね。しかし国民の多くは、まだ国や勤めている会社がなんとかしてくれるだろうと考えている。しかし国も会社も、助けてくれると決まったわけではありません。逆に会社の場合は、そうやって福利厚生を訴えかける日本人より外国人労働者の雇用をこれからも増やすでしょう。」

「日本人より外国人を取ると言うんですか?」

「その通り。いまや国内の労働者数のうち、50人に1人は外国人だと言われています。彼らは日本に働きたくて来ているわけですから、とても勤勉です。外国人に日本人の地位が取られる日が、もう迫っているわけですよ。反対に、日本人の価値は下がりつつあります。

AIという名のライバル

「日本人の価値が下がっていると言っても、言葉の壁もコミュニケーションの取り方も違います。そう簡単に外国人に僕たちの地位を取られるとは思えません。」

仲原は男の数々の衝撃発言に酔いがさめてしまった。もう10分くらい歩いている。そろそろ駅が見える頃だ。

「そうですね。それだけの条件なら、私もそう思いますよ。」男は仲原の発言にあっさり引いた。

「えっ?」

「しかしライバルは人だけではありません。AIの進歩が、より人の働く道を塞いでいくのですよ。例えば、あなたの勤めている会社は株式会社ですか?」

「ええ、そうですよ。」急に何を聞かれるんだろうと思いながらも、仲原は答えた。

「そうですか。ではこのことをよく覚えていてください。株主は、投資した企業の効率しか求めていないんですよ。」

「そりゃあ、企業が利益を出して株主たちに還元するのが株式ですから、そうでしょうね。」

「そうおっしゃいますが、これはつまり働いている人は見られていないわけです。彼らにとっては、誰が働いているかではなく、効率的かどうかが重要。つまり、AIが入った方が、効率的であり、人件費を削減でき、福利厚生などと言ったことも考えなくていい。従業員が解雇されない保証など、どこにもないわけですよ。」

そうひと息に言われて、仲原は背中を冷たいものが流れるのを感じた。いままで大企業に入れて安心しきっていたが、この数分間の間で聞いたことが正しいとするなら、自分はこのままでいいのだろうか?

「機械化が進めば進むほど、人は自分の武器を持っていないと追い込まれます。それに気づいている人はもう行動しています。先ほどの居酒屋でしていたような会話をするのは、これからの時代に対してどうなのかと思い、声をかけさせてもらったのですよ。まぁ聞いてはもらえませんでしたがね。」

男からそう言われ、仲原は恥ずかしくなり顔が赤くなるのを感じた。

決断するとき

駅に着いた。駅周りは金曜日の夜を、先ほどの自分たちみたいに楽しんでいる人たちで賑わっている。自分も先ほどまで同じ気持ちだったはずなのに、いまの仲原は酔いも完全にさめ、何かを考えている顔に見える。

「そろそろこのお話もおしまいですね。もう一度、考えてみてください。国にも企業にも頼ることができない未来を。定年が上がっても企業には雇い続ける体力はない。自分の老後の資金を貯めなければいけないが現在の高齢者のための負担は大きい。自分の代わりは海外からの労働者がいるし、AIに代わることもあり得る。」

男がこれまでを振り返って話をしだした。いま思えば、これだけの内容の濃い話を居酒屋から駅に来るまでの時間で話せたことは不思議だ。

「このまま企業に頼っていては、行き着くのはホームレスか海外に出稼ぎに出るくらいしか選択肢がなくなる、と私は考えています。決断するときなのです。我々はいま、チャレンジする時代にいるのですよ…」

男の言葉が頭の中で反響しているように感じる。仲原は駅の出入り口でボーッとたたずんでいた。時おり横切る人たちが変な目で仲原のことを見ているが、本人は気付いていない。
数十秒程して、仲原の顔つきは何かを決心したように見えた。そしてようやく、先ほどまで自分の横にいて話していた男が、辺りを見渡してもどこにもいないことに気が付いた。

エピローグ

数週間後。TAYATO商事の一室に、仲原の姿はあった。

「おーい仲原。今晩飲みに行こうぜ。」同期の武田から肩をバンッと叩かれながらお誘いを受ける。相変わらず力加減がなっていない。

「ごめん、今日は無理なんだ。」肩をさすりながら、仲原は答える。

「おいおいまたかよ。お前ここんとこずっとそうじゃねぇか。たまには付き合えよ。」

「ごめん武田。最近夜は英会話教室に通っているんだ。」

「英会話?なんだお前、海外に行きたいのか?」同期がいつの間にか始めていた習い事に、武田は首をかしげた。

「そうじゃないんだけど..。これからの時代のために、自分の武器を増やしておきたくてね。」そういう仲原の顔つきは、ただ大人しかった以前よりキリッとして見えた。

【参考文献】

・山埼由紀子弁護士,2020,d’s JOURNAL,<https://cutt.ly/7fCw21g>,(2020/9/23閲覧)

・フォルサ,2018,ミドルシニアマガジン,<https://mynavi-ms.jp/magazine/detail/000573.html>,(2020/9/23閲覧)

唐鎌大輔 ,2018,BUSINESS INSIDER,<https://www.businessinsider.jp/post-169162>,(2020/9/23閲覧)

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