オンラインとオフライン、集客にはどっちがいいのか?

ドリームサポート

この物語は、ビジネスにおいて悩みを持った人のもとに、不思議な男が現れて様々なアドバイスをしていくという問題解決ストーリーです。※登場する一切はフィクションです。小説家ではありませんので、どうぞ温かい目でご覧ください。

集客の方法

プロローグ

「はぁ…、どうしてうまくいかないんだろうなぁ。」

都内某所の居酒屋で、カウンターで1人飲んでいる神沢はため息を吐きながらビールをあおった。和菓子屋の店主である神沢は、自分で3代目になる店の行く末を心配していた。

というのも、最近は若者の和菓子離れが進み、進物を贈り合う風習もやや寂しくなってしまったので、神沢のお店もお客離れが進んでいた。

「こんなに宣伝しているのに、なかなかお客は増えないし…やり方は間違っていないだろうから、露出が足りないのか?」

賑わう店内。楽しそうに飲んでいるお客が多い中、神沢の顔色は優れない。これまで神沢も、客足が遠のくのを指をくわえて見ていたわけではない。若者をターゲットに、見た目が映えるお菓子作りに取り組んだり、慣れないながらもSNSを使って宣伝をしている。

「いまの時代、ネットで集客するのが一番なんだから、このまま頑張るしかないか。」そう言って神沢はジョッキに残っていたビールを一気に飲み干した。そこに、

「何かお悩みのようですね。」

隣に座っていた男が急に声をかけてきた。

「ッブフ!」急に声をかけられ、神沢は傾けていたジョッキからビールを少しこぼしてしまった。

「おや、これは失礼。大丈夫ですか?」そういって男はおしぼりを神沢に手渡してきた。

「ど、どうも。」神沢は受け取ったおしぼりで口周りを拭きながら、男を見た。

その男は不思議な雰囲気をしていた。店内だというのにトレンチコートを着て、ソフトハットを被ったままだ。

「いや失礼。何やら困っている様子だったので声をかけてみました。」

「あぁ、いや、なんて事ありませんよ。よくある仕事に対する愚痴です。」

「ほう。色々と大変だったみたいですね。どうです?よければ私に話してみませんか?」

「いや、そんなよそ様に話すような内容でもありませんから。」

「まぁいいじゃないですか。話すことによって落ち込んだ気分が少しは晴れるかもしれませんよ。」

そこまで言われて、神沢は、確かに誰かに話を聞いてもらいたい気持ちも合ったので、その男に話すことにした。不思議なことに、初対面だがその男には話をしてもいいと思えた。

「じゃあ、」そう言って、神沢は店の内情について、その男に話し始めた。

間違っている考え

「…というわけなんです。」

5分くらい経ったろうか。神沢は男に、最近の店の事情について話し終えた。

「なるほど。宣伝を頑張っているのに、売り上げがよくない、と。」

「ええ、そうなんです。結構ウェブやSNSでの宣伝を頑張っているんですが、なかなか上手くはいかなくて。いや、すいません。初対面の方にこのような話をグダグダと。」

「いえ、構いませんよ。こちらから話してくださいとお願いしたのですから。」

話したことにより神沢は少しスッキリした気分だった。お酒も飲み干したし、そろそろ帰ろうかと思った。

「そうですか。でもおかげさまで少しスッキリしました。では、私はそろそろ…」

「ですが聞いていて実に腑に落ちました。そのような大きな網では、魚が獲れないのは当然でしょう。」

神沢が引き上げようと腰を上げかけた姿勢のまま固まった。

「なんですって?網?」

「ええそうですよ。神沢さんとおっしゃいましたね。そのようなやり方では売り上げが悪いのも納得です。」

「それは一体どういう意味でしょう!?」神沢は座り直して、男に詰め寄った。「いまの時代、オンラインで宣伝するのは当たり前じゃないですか!?それを頑張っているのに売り上げが一向に良くならないのは、露出が足りていないからでしょう。もっとたくさんSNSやネットで広告を打って宣伝すれば、いいじゃないですか!?」

「その考えをまず正さないといけないですね。まあまだ夜は長い。飲み物を追加するとしましょう。」

そう言って男は日本酒を燗で追加した。頼んだお猪口は2つだった。

情報は流される

賑わっている居酒屋内。テーブル席は多くのサラリーマンが日頃の愚痴を言ったり仕事がうまく行ったので旨い酒を飲みに来た客が座っている。

カウンターも何組か座っている。そのうちの1組、いや、元々は別々だったのだろうか。2人の男が座って話をしていた。

「私のやり方では売り上げが悪いのは当然とは、どういう意味です?」

和菓子の3代目店主である神沢が、もう1人の男に聞いた。男は頼んだお酒をお猪口に注ぎ、一口飲んだ。

「神沢さん。あなたSNSでも宣伝していると先ほどおっしゃいましたね?」

「ああ、そうですよ。ツブヤイターとアウトスタグラムでね。」元々はSNSに疎かった神沢だが、仕事のために始めたのだ。いまでは発信することが日課になっている。

「ではツブヤイターを例にして話してみましょう。ツブヤイターには、他の人の投稿に「いい!」を押す機能があります。それはご存知ですね?」

「えぇ、知ってますよそれくらい。それがどうしたっていうんです。」

「では、例えばあなたが見る側なら、どんな内容に「いい!」を押しますか?」

「どんなって…共感するような内容だったり、素敵な画像が貼ってあるときとかです。」

「その内容を覚えていますか?」

「覚えてはいませんよ。何十、何百人もの投稿が流れてくるんですよ。」

「それですよ。」

「はい?」

「いまのあなたのお店の宣伝方法の問題点です。あなたのSNSでの投稿なんて、見ている人からすれば何十何百のうちの一つにしかならないんですよ。」

「そんな」言われる側になって初めて、神沢は自分の宣伝がどのように見られているのか知りショックを受けた。

荒い網では魚は獲れない

「いくらこちらが一生懸命にいい情報を発信しても、見ている人はどんどん流していく。そのような手段では荒い網で魚を獲ろうとしているようなもの。そのような網では魚はスイスイと逃げていきます。だから、あなたの方法ではお客を獲得できないと言ったのです。まぁ、お客を魚に例えるのは口が悪いかもしれませんがね。」男は自分が言ったことに苦笑いしながら、お酒を注いでお猪口に口をつけた。

神沢は言い返したかったが、いまの自分の店の売り上げを思い返せばそう言われても仕方のないことだと思っていた。

「では、どうすればいいっていうんですか。ネットでの宣伝をやめて、昔みたいに一人一人直接会って宣伝してみろっていうんですか?そんなわけ..」

「その通りです。なんだ、神沢さん、あなたわかってるじゃないですか。」男は笑って答えた。

「え?冗談でしょ?」自嘲気味にいった言葉に男が思わぬ反応をしてきたので、神沢は逆に驚いた。

「冗談なんかじゃありませんよ。SNSなんて使って不特定多数に情報を発信するより、オフラインで一人一人に会って話をする方がよっぽど価値があります。例えばこんな話があります。」そう言って男は語り始めた。

オフラインの繋がりは比例する

「ある若者が、日本全国を旅していました。彼は、『なるべく多くの人と知り合いになる』という目標を掲げていました。そして旅を終えた後、その子は災害にあった地域に全国から寄付金を募るという活動をするんです。」

「いい子ですね。」

「ええ、本当に。彼には全国で人に会って人脈があったので、非常に多くの人から寄付が集まりました。しかし、2県だけ、他の県に比べて寄付金額が少なかった県があったのです。どこだか分かりますか?」

「えーっと…北海道と沖縄とかですか?遠すぎて行っていなかったとか。」

「いえ、北海道にも、沖縄にもその子は言っていました。ですがいま近いことを言いました。行っていなかった県からは、あまり結果が芳しくなかったのですよ。」

「なるほど…」

「つまり、オフラインで行動した結果に比例したデータが表れている訳です。だから、オンラインでの不特定多数よりオフラインにおける活動が大事と言っているのです。」

「じゃあ、私のSNSでの活動は無駄だったということですね..」神沢は、今までの努力が無駄だったと思い、深いため息を吐きたくなった。

「いえ、そうでもありません。SNSは、相手の動向を知る上で非常に有効なツールです。」

「え?」

「オフラインで繋がっている人でも、毎日何をしているかなど把握はできません。その点、SNSでは近況を知ることができますからね。オフラインで会った人とはSNSなどで繋がっておいて、近況を把握しつつ、会う機会を探っていけばいいのです。あなたのしていたことが無駄とは、私は思いませんよ。」

男からそう言われ、思わず神沢の目には涙が浮かんできた。いままで積み上げてきたことが無駄にならないと知り、ホッとしたのだ。

「そ、そうですか…良かった…」

「もう一つ、私が好きな話を紹介しましょう。これはとある美容院の話なのですが、そこでは月に1回、常連さんたちを招いて美容院の中で飲み会を開くんです。」

「へぇ、面白そうですね!」

「それが美容師の人たちにとっては、大事なファンづくりの場になるのですよ。普段は髪を切ってもらうスペースでお酒を飲み、髪を切る側と切られる側という垣根を越えて、より親しい関係になっていくのです。そうすれば、お客さんから新しい指名が入ったりしますからね。」

「なるほど…ファンづくりの場…」

神沢は男の言ったことを、ぶつぶつ独り言を言いながら反芻していた。男が出した例を頭の中で何度も繰り返し、自分の店はどうしていくのがいいか、考えを巡らせていた。

「…そうだ!これでいこう!ありがとうございます!やることが決まりました!」

数分後、妙案が閃いた神沢が笑顔になって横に座っていた男に感謝の言葉を述べようとしたが、いつの間にか男はいなくなっていた。

「あれ…?あの人は一体

エピローグ

数ヶ月後。都内のとある和菓子店。

「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」

そこには、以前飲み屋でため息を吐いていた神沢の姿があった。あの日の夜以降、神沢は自ら店に立ち、お客様一人一人と交流していった。そして、昔お得意様だった人たちの家に挨拶に伺ったり、遠方の家には手紙を出したりした。SNSでの発信も継続して、新商品の紹介や和菓子の由来などを紹介していった。
そして、地域交流の場として、月に1回店内で「和菓子作り体験教室」を開くようにしたのだ。

その結果、徐々に客足は増え始め、いまでは昨年の売り上げを日々更新する勢いだった。

「店長、最近すごいお客さんが来てくれてありがたいですね!」接客を終えた神沢に、販売員の1人が話しかける。

「うん、網の大きさを変えてみたんだよ。」

「え?網?」

「ははは、なんでもないさ。」

—完—

 

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